長州産業株式会社は、CSI (註1)と共同で、現在主流のシリコンウェハーの製法と比較して1/2のコストで製造可能な一辺の長さが156 mmの正方形のシリコン(Si)ウェハーをヘテロ接合太陽電池(SHJ)(註2)に適用する実験を実施し、同様の手法で作製されたSiウェハーを用いた太陽電池の世界最高記録であった21.2%の変換効率を更新し、22.5%の効率を実現することができました。
 2013年11月より弊社とCSIは、この方法で作製されたSiウェハーをSHJに適用する実験を開始しました。CSIは太陽電池用Si ウェハーを製造するための技術を保有しており、その成長速度は4μm/min.に達しています。実験にはCSIから提供されたSiウェハーが用いられました。
 これまでの太陽電池向け単結晶Siウェハーは、多大な電力と材料ロスの多い工程で製造されていました。具体的には、塩化シラン化合物から成るガスを水素などで還元し、多結晶Si粒を製造します。それを摂氏1450度の高温で溶融させ、チョクラルスキー法で単結晶Siのインゴットとした後、ダイヤモンドワイヤーソーで薄くスライスすることでSiウェハーが製造できます。典型的なダイヤモンドワイヤーソーの直径は100μmであり、ウェハーのスライス時にはウェハー厚さ分と同量の鋸屑が発生します。つまり、単結晶Siの半分近くがおがくず状の廃材になってしまいます。
 共同開発の題材となったSiウェハーは、塩化シラン化合物に水素を混合させるところまでは従来法と同じですが、その後、表面を多孔質化する処理を施した土台となるSi基板上に化学気相成長(CVD)法を用いて単結晶Si膜をエピタキシャル成長させます。単結晶Si膜が基板として十分な厚さになった後は、土台となるSi基板を機械的に剥離します。この土台のSi基板は数十回にわたり再利用できます。このタイプのSiウェハーはエピウェハーと呼ばれています。
 本手法を用いれば、Siウェハーを飛躍的に安価にすることが可能となるばかりではなく、従来のダイヤモンドワイヤーソーでは鋸屑が増えて事実上難しかった100μm厚を下回る薄さのSiウェハーの製造も容易になります。さらに、従来の単結晶Siに比べ半分以下の電力消費量で作製することができるという利点もあります。
 この研究の成果を纏めた論文は、Applied Physics Letters誌(註3)に本年発表し、2015年11月3日にカナダの再生可能エネルギーに関する総合科学情報サイトの“再生可能エネルギーの世界的新機軸”(仮訳 Renewable Energy Global Innovations)(註4)に“重要太陽電池論文”(仮訳 Key Solar Cells Articles)として選定され、同サイト(https://reginnovations.org)で紹介されました。
 また、同論文の発表以後も改良を進めた結果として、同手法で作製された太陽電池セルの変換効率は23%に達しています。この成果は2015年9月14日から5日間にわたりドイツのハンブルク市で開催された第31回欧州太陽光発電国際会議にて発表され、日本の企業・研究機関からは唯一となる同会議のハイライトに選出されて注目を集めました。

 弊社は低コスト・高出力・高環境性能が両立するエピウェハーを用いたSHJモジュールを逸早く市場に投入すべく、研究開発に取り組んで参ります。

(註1) CSIについて:Crystal Solar Inc.の略称です。同社は2008年に起業された米国カリフォルニア州の太陽電池用Si基板製造会社です。同社のSi基板製法は、「高スループットエピタキシーによるダイレクト単結晶シリコンウェハー成長法」(仮訳 Direct Monocrystalline Silicon Wafer Growth by High-Throughput Epitaxy)と呼ばれます。
(註2) SHJについて:三洋電機(現パナソニック)によって発明された技術です。この技術は高効率であることや、夏季の高温時にも性能低下が少ないことなどの理由から次世代太陽電池として非常に高い注目が寄せられています。
(註3) Applied Physics Lettersについて:米国物理学協会が毎週発行している権威ある学術雑誌です。
(註4) Renewable Energy Global Innovationsについて:カナダの再生可能エネルギーに関する総合科学情報サイトです。1ヶ月で世界中から約645,000回閲覧され、また世界トップ50のエネルギー、工業系企業、研究所とリンクしています。専門家のチームが、当該研究分野の発展に資する重要な知見を与える論文として高い評価を与えた論文が招請されます。